「さっきも言ったよね」——そう言いたくなる瞬間が、一日に何度もある。朝ごはんを食べたばかりなのに「まだご飯食べてない」と聞かれ、昨日話したはずの孫の名前を、また一から説明する。最初は優しく答えられていたはずなのに、同じやり取りが5回、10回と重なるうちに、つい声がとがってしまう。そして後から、「なんであんな言い方をしてしまったんだろう」と自分を責めてしまう——訪問リハビリの現場で、そんなご家族の姿を何度も見てきました。厚生労働省の調査でも、在宅で家族を介護する人の約69.2%がストレスや悩みを抱えていると報告されています。決して、あなただけが弱いわけではありません。
同じ話を繰り返すのは「わざと」ではない
認知症になると、新しく経験したことを記憶として保存する力が弱くなります。一方で、昔からの記憶や、体で覚えた習慣は比較的長く残ります。だから「さっき聞いたこと」は本人の中に残らず、何度でも「初めて聞くこと」として質問が繰り返されるのです。これは意地悪でも、甘えでもなく、脳の働き方の変化によるものです。この仕組みを知っているだけで、同じ質問をされたときの受け止め方が少し変わってきます。
イライラする自分を責めなくていい
「優しく接しなきゃ」と分かっていても、同じことを何度も聞かれると疲れてしまうのは、当然の反応です。むしろ、毎日近くで向き合っているからこそ生まれる感情だとも言えます。訪問リハビリでお会いするご家族の中にも、「イライラしてしまう自分が嫌になる」と涙を見せる方が少なくありません。そのたびに私がお伝えしているのは、「イライラすること」と「大切に思っていないこと」は別物だということです。感情が動くのは、関わっているからこそ。まずはその自分を責める気持ちを、少しだけ横に置いてみてください。介護の専門職の間でも、こうした疲れは「共感疲労」と呼ばれ、真剣に向き合う人ほど陥りやすいことが知られています。
現場で出会った、あるご家族の話
あるお宅では、お母様が「お財布がない」と一日に何度も訴え、そのたびに娘さんが一緒に探すという毎日が続いていました。探しても見当たらないことに苛立ちが募っていましたが、あるとき「一緒に探してくれてありがとう」とだけ返す対応に変えてみたところ、お母様の不安そうな表情が和らぎ、探す時間そのものも短くなっていったそうです。「事実を正す」よりも「気持ちに寄り添う」ことが、結果的にお互いの負担を減らすこともあります。娘さんは後日、「正しさを証明しようとするほど、二人とも疲れていたんだと気づいた」と話してくれました。
その場でできる、3つの受け止め方
一つ目は、内容を正そうとせず、まず「そうなんだね」と気持ちを受け止めることです。二つ目は、同じ話でも「初めて聞いたふり」をするのではなく、「何度も大事なことなんだね」と受け取り直すことです。三つ目は、どうしても余裕がないときは、「ちょっとお茶を入れてくるね」など、その場を一旦離れる小さな理由を作ることです。無理に付き合い続けることだけが、優しさではありません。離れて深呼吸をしてから戻るだけでも、次の対応は驚くほど変わります。
一人で抱えなくていい
同じ話への対応を毎日一人で担い続けると、心はすり減っていきます。デイサービスやショートステイなど、他の人と過ごす時間を作ることも、立派なケアの一つです。ケアマネジャーや訪問リハビリのスタッフに「最近、同じ話に付き合うのがつらい」と話してみるだけでも、気持ちが軽くなることがあります。「私がちゃんと対応しなきゃ」と抱え込まず、頼れる場所を少しずつ増やしていくことを、どうか自分に許してあげてください。
この記事で紹介しきれなかった「場面別・使える言葉かけ台本集」「介護者自身の気持ちを整理するセルフチェックシート」については、noteでより詳しく解説しています。よろしければそちらもあわせてご覧ください。

