「大丈夫です、まだやれています」
訪問リハビリでご自宅にお伺いすると、そう言って微笑む介護者の方によく出会います。でも、その目の下には濃いくまがあり、声には張りがなく、部屋の隅には畳まれていない洗濯物が積まれている。「まだやれています」という言葉の裏に、限界が近づいているサインが隠れていることを、私は現場で何度も見てきました。
在宅で親や配偶者を介護しているご家族の約7割が、ストレスや悩みを抱えているというデータがあります。それでも多くの方が「弱音を吐いてはいけない」「もっと大変な人がいるのだから」と、自分の疲れを後回しにしてしまいます。そして、介護者自身が体調を崩し、共倒れになってしまう——これは決して珍しいケースではありません。
なぜ「頑張り屋」ほど危ないのか
責任感が強く、几帳面な方ほど、「自分がやらなければ」という思いに追い詰められやすい傾向があります。訪問リハビリでお会いするご家族の中にも、「人に頼るのが苦手で」「誰かに任せるくらいなら自分でやったほうが早い」とおっしゃる方が少なくありません。その真面目さ、優しさこそが、じわじわとご自身を追い詰めてしまうことがあるのです。
以前担当していたお宅で、認知症のお母様を働きながら一人で介護されている娘さんがいらっしゃいました。「他の人に頼むほどではないので」と、デイサービスの利用を渋り続け、気づけば半年以上ほとんど休めていない状態でした。ある日、娘さん自身が朝起き上がれなくなり、しばらく仕事を休むことに。「もっと早く誰かに頼っていれば」と話してくれたその言葉が、今も心に残っています。
見逃さないでほしい、3つのSOSサイン
体からのサインとしては、寝つきが悪い、肩や腰の痛みが取れない、食欲が落ちる、といった変化があります。心からのサインとしては、些細なことでイライラする、涙もろくなる、以前は楽しめていたことに興味が持てなくなる、といった変化が現れます。生活からのサインとしては、部屋が片付かなくなる、約束や予定を忘れやすくなる、といった変化が見られるようになります。これらは「気合いが足りない」からではなく、心と体が発している立派なSOSです。一つでも当てはまるものがあれば、それは頑張りすぎているサインかもしれません。
作業療法士がすすめる「引き算」のセルフケア
リハビリの現場では、「何を足すか」より「何を手放すか」を一緒に考えることを大切にしています。すべてを完璧にこなそうとするのではなく、今日はここまでで十分、と決める練習をすること。家事や見守りの一部を、デイサービスやショートステイ、訪問介護といった外部サービスに任せてみること。そして、家族以外の誰か——友人でも、専門職でも——に、弱音を吐ける相手を一人でも持っておくこと。この3つが、共倒れを防ぐ小さいけれど確かな一歩になります。
頼れる場所を、あらかじめ知っておく
いざというときに慌てないために、頼れる相談先を事前に知っておくことも大切です。担当のケアマネジャーには、身体介助のことだけでなく、ご自身の体調や気持ちの変化も遠慮なく伝えてください。お住まいの地域の地域包括支援センターでは、介護保険サービス以外の相談にも乗ってもらえます。ショートステイは、旅行や用事のためだけでなく、「何もない日」に自分を休ませるためにも使ってよいものです。制度は、我慢に耐えかねてから使うものではなく、倒れる前に使うためにあります。
まとめ
介護は、長く続く道のりです。だからこそ、頑張り続けるための一番の土台は、介護者自身が倒れないことです。「まだやれています」の代わりに、「今日はちょっと疲れました」と言える環境を、少しずつでいいので作っていってください。
この記事で紹介しきれなかった、介護者向けの「共倒れ危険度セルフチェックリスト30項目」や、レスパイトサービスの具体的な使い方、弱音を吐ける相談先の一覧については、Copathicaのnoteでより詳しく解説しています。「自分も限界かもしれない」と感じている方は、ぜひのぞいてみてください。
一人で抱えこまなくて大丈夫です。専門職や周りの人と一緒に、無理のない介護のかたちを見つけていきましょう。

